アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)

「……あなたは、随分変わっている。
僕を庇う理由なんか必死で探しても何にもならないのに。
僕は、かわいげのない性格でしょう」


かわいげのない性格だという自覚があったのか。

私は大きく目を見開いて彼を見つめた。彼は私の表情に顔を赤らめた。
私の心中が見事に顔に出ていたらしい。
私は慌てて足元に視線を落とした。


「さあ、今は難しいことを考えないで服を着て。……失礼だけど、その服……『ちょっと』汚れてるから」

ちょっとどころではない。シーツやマルチカバーなどでさりげなく自衛したつもりではあるが、王子の服にしみこんだ血と汗がいつソファや布団を汚すか、こちらは気が気ではない。

王子はなおもためらっていたようだったが、私が思わず眉間に皺を寄せると、彼は小さくため息をついて紙袋を受け取った。


「シャワールームを借ります」


王子は歩き出した。数歩行っただけでふらついているのがわかる。

「お、お湯の出し方とか、わかる……?」


お湯の出し方などと表現したが、正直なところ、いま聞きたいのはそこではない。

怪我をしてさらに発熱している王子が一人でシャワーを使うことができるのだろうか。

しかし私は成人男性の入浴を手伝った経験などない。彼の入浴をちゃんと介助できるかどうか自信はないし、かといって浴室で倒れられたら女の力であの背の高い彼を浴室から引きずり出すのはかなり難しい。
王子は少し振り返って私を見ていたが、やがて首を横に振った。


「女官でもないあなたに手伝っていただくわけにはいかない。でも、ありがとう」

「あ、イエ……」


王子が私の申し出を断ってくれたことにほっとするが、彼が浴室に消えてしまうと今度は王子が倒れたらどうしようとまた新たに気を揉んだ。


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