アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
その時私は彼の傷を初めて明るいところではっきりと見た。
所々膿(うみ)を滲ませた傷口は思ったよりも深く大きい。
女性に見せるようなものではないという彼の言葉は大げさではなかったようだ。これだけの傷を抱えてよく平気な顔でシャワーを浴びたり食事をしたりしていたものだ。我慢には慣れているのだろうか。
「これ……縫わなきゃ」
私は動揺を押し殺した声でそう言った。これは素人の応急処置で手に負えるものではない。
彼は私の言葉に首を横に振った。
「きつく包帯を巻いておけば、三日もすれば傷はくっつきます。
今、病院にかかると暗殺者にも居所がばれてしまう。どこから僕の情報が漏れているのか……それがわかってからきちんと医師にかかったって遅くはない」
「……」
例え腕を失うことになったとしても、命は失うわけにはいかない。単に殺されたくないということではない。たぶん、彼には背負うべき物がたくさんあるのだ。
頑なに見える彼の態度にはやはり責任というものがずしりとのしかかり、彼を縛っている。
気の毒に。
普段はあまり物事を深く考えるたちではない私なのに、また強くそう思った。
「痛むかもしれないけれど、こらえてね」
「こらえる?」
「我慢ってこと」
彼は頷いた。
私は傷にガーゼを当てて包帯の端を王子の肌に当てた。王子の肌は熱かった。まだ熱が下がらないのだ。