アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
それから数日間、私と王子は食事や傷の世話のとき以外はあまり互いに干渉しなかった。
私は王子をどう扱ってよいのか判断しかねていた。
警察はともかく、病院のことは度々考えた。彼が負った傷が普通の人の手に負えるものではないんじゃないかと心配でならなかった。
王子は王子で元々あまり人懐こい性格ではないのだろう、日常生活について不便を感じても黙って耐えているような様子が時々見受けられた。
それでも、彼は人間を観察することは上手なようで、数日の間にすっかり私の生活をのみこんでうまく私の生活にリズムを合わせてきた。
今までそんな事をしたことはないだろうに、給湯器の使い方までいつの間にか覚えて私の知らない間にきっちりと私のやりかたで食器を洗っておいてくれたり、重いからと私がおきっぱなしにしていた買い置きのペットボトル飲料を片付けてくれていたりと怪我人であるにもかかわらずさりげなく役に立ってくれる。
そして、王子は国の情報が気になるのだろう、ニュース番組の時間になるとこまめにテレビをつけていた。
しかし、カガンは日本からは遠い国で、経済関係も希薄だ。よほど大きな何かが起これば別だが、それ以外は海外のニュース番組から借りてきた映像が数分流れるか、時には映像すらない短いニュースをアナウンサーが淡々と読み上げるだけ。
王子が望むほど詳しいカガン国内の情報はなかなか得られなかった。
慌(あわただ)しいモーニングとランチの時間を乗り切り、ようやく二階に上がれるのはいつも二時ごろ。その時間帯に私は王子と昼食をとる。
家の中の食品で食べたいものがあれば自由に食べて構わないし、キッチンも使っていいと言ってあったにもかかわらず、王子は出されたもの以外に手を付けない。
私は度々二階に上がって王子の様子を見てカガンティーなりビスケットなりを出さなくては彼がとても不自由するような気がして、仕事中も二階が気になって仕方がなかった。