アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
温めなおしたチキンをテーブルに出すと、あまり表情のない王子の美貌にかすかな喜色が宿ったような気がした。
彼は厳しい躾を受けているのだろう、彼の知らないであろう料理を出してもあからさまにいやな顔はしないが、やはり食の進み具合や食べるときの様子は微妙に違う。それを見るともなく見ていると、だんだん彼の食の好みがわかってきた。
彼は日本に来てすでに何年かになるようだが、日本の食文化にはあまり触れていないらしい。
だから彼は味付けが単純で、使われている素材の種類が見た目でわかりやすい料理のほうが安心して食べられるようだ。彼が出された食事に彼がコメントをすることはほとんどなかったけれど、私は子どものころから父の店に出入りしているせいか、人の好みの傾向をつかむのには慣れている。
食後のカガンティー用に牛乳をとろ火で沸かそうとしていると、彼がすまなそうに言った。
「ハル、さん。テレビをつけていても?」
私は時計を見やって頷いた。ニュースの時間だ。
私にとってはいつものことだがテレビを見ながら食事やティータイムというのは日本では行儀の悪いことだ。カガンでも同じなのだろう。王子はすまなそうにしていた。
私は気にせずテレビをつけた。店でもランチタイムには当たり前のようにテレビをつけているのだ。そんな私が王子の無作法をどうしてとがめる事ができるだろう。