アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「ただいまABD通信から入ったニュースです。
先月軍部主導のクーデターが起こり、国王夫妻が拘束されていたカガンで、本日未明、国王夫妻の処刑が執行されました。
ヨーロッパ諸国はこれを受けてカガン政府に対する非難を決議しました」
アナウンサーの緊張した声が読み上げる酷いニュースに、お茶のおかわりを淹れようとしていた私の手が止まった。
テレビ画面では銃撃のために外壁がぼろぼろになった王宮、及びその周辺の街並みが映し出された。
戦車の上から市民に対して威嚇発砲する兵士の映像、国王夫妻に対する一方的な処刑に抗議する市民が王宮の周りをぐるりと取り囲んでいた。スカーフをかぶった女性や髭を蓄えた男性が銃を持った兵に向かって泣き喚きながら何かを訴えている。
今私が暮らしている日本の現状とかけ離れたその映像は、まるで作り物のように見えた。
ニュースのショックが自分の中でだんだん現実として認識され始めると、王子の様子が気になった。
処刑されたカガン国王夫妻というのは彼の両親ではないのか。
私は見てもいいのかいけないのかと迷いながら、彼の様子をそっと窺(うかが)った。
彼は彫像のようにそこに座っていた。
王子の大きな淡い色の瞳は大きく見開かれ、テレビに釘付けになっていた。
彼は微動だにしなかった。
自分の両親が酷い死に方をしたというのにうめき声一つ上げなかった。
けれどその大きく見開かれた瞳の中で、彼の心がばらばらに砕けて毀(こわ)れてゆくのがはっきりとわかった。
どうしよう。
王子の心の壊れる瞬間を、私はこの目ではっきりと見つめていた。
何か、してあげるべきだ。どうにかばらばらになろうとしている彼の心をつなぎとめてあげるべきだ。けれど、相手にするのは心だ。手で、肌で触れることのできない心なのだ。どうしたらいい。