アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私も父を失った身だ。
親を失う心細さ、悲しさは知っているつもりだ。父がなくなった時、私は誰にどうして欲しかったのか。
思い起こしてもはっきりとしたことはわからない。
今もあのときのことはぼんやりとしていてつかみどころがない。
答えの出ないまま、私はテーブルの上に置かれたままぴくりとも動かない彼の手、その長く骨ばった指の先に、そっと自分の指先を重ねた。
しっかりと手を握ってあげることはできなかった。ほんの少しの衝撃で、彼のぼろぼろになった心が一気に崩れて、よくない方向へ押し流されてしまいそうだったから。
そうして動かないでいると、アナウンサーが次の文を読み上げた。引き締まった彼の唇がかすかに震えた。
「処刑を執行した軍部は、国王夫妻が海外の口座に不正に多額の金を送金していた証拠を見つけたと発表しています。カガン国では王家は市民の敬愛の対象であるため、市民の間には動揺が広がっています」
アナウンサーは心をえぐられた王子に、追い討ちをかけるような情報を淡々と読み上げた。
アナウンサーは与えられた情報を報道しているだけだ。
しかし王子にとってみれば不当に両親が殺されたこと、そして「海外への不正な送金」という言葉で両親の名誉を汚されることがつぎつぎと時をおかずに突きつけられた形になった。
それはきっと彼にとって耐えがたい苦痛だったろう。
「……Отличаться(ちがう)……Это-ложный слух(嘘だ)……」
彼の引き締まった唇は色を失い、かすかに震えていた。
王子はその美しい瞳がこぼれそうなほど大きく目を見開き、自国の言葉で小さく呟いた。何度も呟いた。まるで自分自身に言い聞かせるように。
大丈夫だろうか。
私は怖くなって王子の指に重ねた自分の手を、しっかりと王子の手にかさね、その長く骨ばった指を握り締めた。
握り締めた王子の指先はぞっとするほど冷たかった。