アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
私は指先のその冷たさを噛みしめながら祈るような気持ちでじっと動かなかった。
ひどい悲しみは人の心をめちゃくちゃにする。自分自身を否定させる。心の歯車が狂って、その痛みを紛らわすために、人はあてもなく後悔を始める。こうすればよかった。ああすればよかった。なぜそうできなかった。自分はなんて駄目なやつだったんだ。
でも、そんなことは自分を痛めつけるだけで、何にもなりはしない。
どのくらいの時間、そうしていただろうか。
長い時間だったとは思わない。
にぎやかで少しコミカルなCMソングがテレビから聞こえていた。
彼もその音に悲しみにくれた心を引き戻されたのか、顔を上げて私を見た。
その目はひどくうつろで、彼が整った顔をしているだけにマネキンのように見えた。
「国王夫妻が不正な送金をしていたなんて、嘘だ。……信じないで」
ぽつりともれたその言葉に、私は小さく頷いた。
「わかってる、そうだよね」
ついこの間までカガンの国内のことなどなに一つ知らなかった私は、もちろん国王夫妻がどんな人柄だったのかなど知るよしもない。
しかし私は頷いた。彼をこれ以上傷つけたくなかったし、彼が衝動的な行動に出る前に落ち着かせるべきだと思ったからだ。
私が彼を落ち着かせるために話の内容をよく吟味せずに頷いていると感じたのだろう、彼はさらに言い募った。
「違う。そうじゃない。
聞いてください。父はもちろんの事、母は金銭のことなど生まれたその日から一度も考えたようなことのない人だった。
王となるべく生まれた自分の名前を何より大事にする人だった……!
不正な送金なんかするはずがないんだ、絶対、絶対に!」
話しているうちに気持ちが高ぶってきたのだろう。最後の言葉は怒鳴り声に近かった。
私は男性の発する大きな声に思わず身をこわばらせた。