アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
「かかあがうるさいからちょっと店のほう見て来るわ」
その声に私ははっと顔をあげた。
我に返ると丁度商店街のパン屋のおじさんが店のガラス扉をあけて出て行くところだった。
彼はいつも数時間は休んでいくのに、今日は珍しく昼休憩を30分ほどできりあげた。おばさんが何度も何度もおじさんの携帯に電話をかけてきたからだった。
「ありがとうございましたぁ」
おじさんを送り出してから店内を見回すと、店内にはもうお客は残っていなかった。
いつもならばこういうときはさっと自分のお昼を済ませるのだが、その日はやはり王子のことがずっと気になっていた。
彼は一人でどうしているだろうか。
何かあたたかいものでも飲ませてあげたほうが良いのではないか。
私は二階に向かった。
何も飲まないならそれでもいい。でも顔色くらいは見ておいたほうがいい。何しろ彼は怪我をしているのだし、不意に体調を崩さないとも限らないのだ。
そんな気持ちだった。