アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)



その日もモーニングのお客の波が過ぎ去り、店に静けさが戻ったころ、カガン人のお客が休憩でやってきていた。


店じゅうに置かれたポトスの鉢に水をやっていた私は手を止めた。


「コニチワー、ハルさん。いつものお願いします」


立派な髭を蓄えたカガン人のおじさんたちがそう言いながら店に入ってくる。


「はーい」


カガン人が店に入ってくれば、その全員がとりあえずカガンティーを注文する。
すでに彼らの存在に慣れきっている私は店の前にカガン人の姿が見えるなり小鍋で牛乳を沸かし始める。


「ハルさんー、今日は寒いですね」


日本よりもはるかに寒い国で生まれ育った彼らだが、半分冗談、半分本気でそんなことを口にする。

彼らに言わせると、日本の暑さはサウナのようでつらく、そして冬の寒さは骨にしみるようでつらいのだそうだ。


カガンを知らない私にはあまり実感がないが、年中通してカガンよりもずっと高い日本の湿度が彼らには堪(こた)えるらしい。

できたてのカガンティーを運んでいくと、彼らは数人で一冊の雑誌を覗き込んでいた。
そこで使われているのは英語ではない。独特のアルファベットで書かれたカガンの雑誌だ。私にはタイトルすら読めない。

私は彼らが読んでいる雑誌の表紙に目をやった。



表紙にはアジア人とヨーロッパ人の両方の雰囲気を感じさせるエキゾチックな服装の子どもが印刷されていた。
美しい子だ。少し首を傾けてこちらを見るその表情になんともいえない気品が備わっている。
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