アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
父が死んだ夏を思い出したのは久しぶりだ。
王子の両親が無事だったならば、父の命日でもないのに改めてこんな事を考えてみることはなかっただろう。
父の事、私の心の事。
王子は私とは何もかも真逆の人間で、似通ったところなど一つも内容でいて、彼の痛みのこらえ方は少し私に似ている。
私は彼を見上げた。
何か言うべきだと思った。自分が何を言うつもりなのかはっきりとはわからないまま、私は口を開いた。
「私、あなたに部屋や食べ物をあげることはできても、王子の抱える問題はどうにもできない。
でも、……でもね」
自分が衝動的に発した言葉に戸惑いつつも、私は吐き出さずにはいられなかった。
彼は私が何を言わんとしているのか予想がつかないのだろう、疲れた顔に困惑しているような表情を浮かべていた。
「私は、カガン人じゃないから、あなたのことはただの外国人だって思ってるだけ。
だから、あなたが王子らしくないことを言ったりやったりしても、……たとえば王族とは思えないほど情けなくっても、私は気にしないし、カガン人みたいにがっかりもしないし、たぶんすぐに忘れちゃって、……思い出すこともないと思う。
たとえばあとで、何年もたってから誰かにあなたの様子を聞かれても、さあ?って……言うと思う……」
後半は自分が何を言っているのか整理できないまま発した言葉で自分自身が自分に驚いていた。
ただ、吐き出したかった。私はあなたが王子らしくなくとも気にしない、と。
私はカガンの国民ではないし、あなたとは無関係の人間で、いずれもう二度と会うこともなくなる人間なのだから、何を言ってもいい。どんな気持ちを吐き出したっていい。涙を流したっていい。王子のあなたも、今は当たり前の人間でいていい。
そう伝えたかったのだ。
彼は黙って、少し困ったように私を見つめていた。
自分でもはっきりとそれがどういう感情なのか整理する間もなく口に出してしまった言葉だ。彼が困惑するのは当然のことだったと思う。
踏み込みすぎた。