アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)



私はすぐに自分の発した言葉を後悔した。


踏み込みすぎた。


こういうことを彼に言ってあげるべき人は私ではない。けれど、ここには私以外誰もいない。だから彼が自分で気付かない以上、私が言うしかなかない、そう思ったのだが……。

しかし、友人ですらない私がこういうことを言うべきではなかった。

ポトスを彼に譲ったその時もそうだったけれど、彼は王子というだけあって、誇り高く、時には高慢でさえあった。プライドの高い彼は他人にこんなことを言われる自分をひどく恥じただろう。



「ごめん、変なことを言って」


私はそう言って逃げるように彼の隣を通りぬけた。

リビングに戻ろうとしたその時、私はふと何かの気配を感じて振り返った。



王子は、細く短い廊下に取り付けた小さな窓に手をついて、レースのカーテン越しに、窓枠に吹き寄せられた雪を見つめていた。

心ここに在らずといった様子だった。カガンの雪を連想したのかもしれない。



「父は、冬は嫌いだったな。……母も、そうだったかもしれない。
聞いてみればよかった……」

ぽつりと呟いた彼の言葉は英語でもなくカガン語でもなく、日本語だった。


彼は、私に話しかけている。




それに気付いた私は彼の隣まで数歩戻り、彼が雪に飽きるまでじっとその場に立っていた。
彼はそれ以上何も言わなかった。泣きもしなかった。
じわじわと骨にしみるような寒さの中、私達はしばらくそうして並んで同じ雪を見ていた。


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