アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)



正月休みに入った店は、火の気が絶えて余計に寒々しい。


私は大掃除がてらキッチンで売れ残った食材を整理することにした。
年が明けてから大掃除とはだらしない自分がいやになるが、うちの店の年末はどういうわけか毎年、商店街関係の行事や町内の一斉清掃などで忙しく、自分の店の掃除を後回しにしなくてはならなくなってしまう。

カウンター下の食品保管庫に半身を突っ込んで整理しつつあちこち消毒していると、食材の残りが例年よりも多いことに気がついた。


カガン人のお客がほとんどこなくなったせいで、店の売り上げは落ち、カガン人が好んだものが軒並み残っている。砂糖やバターは保存がきくのでいいとして、残ったパンと牛乳については考えなければいけない。
店が正月休みに入ってしまった以上、こういう日持ちのしないものは家で消費するしかないわけだが、正月の食卓にパンではどうも正月の気分になれない気がする。



「お正月なのに、パンねぇ……」

王子の気晴らしになればと日本的な食材も少しは買っておいたが、彼は両親をなくしたばかりだ。おせちを買っておくほどお祝いムードになれるわけもない。


少し肉を買い足しておくくらいでいいのかな。

ここのところ、若い男性がいるのだからと気を使って夕食は肉をメインにし続けていた。当然のことだがあっという間に備蓄の肉類は尽きてしまった。

すき焼き……?それともオーブンで焼くだけのローストビーフはどうだろう。ローストビーフは保存がきくので多めに作っておけばいつでも食べられる。王子もおせち料理を出されるよりもそちらのほうが食べやすいのではないだろうか。
何事にも取り掛かるのが遅い私だが、食べることとなれば別だ。

私はめったにあけることのない王子の部屋の襖をトントンと叩いた。


「あの、……殿下。車で出かけるけど、一緒に……行く?
あ、私はたいした買出しじゃないんだけど、殿下も、何か必要なものがあれば言ってほしいし、できたら一緒に、行けたらいいと思うんだけど」
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