アンフィニッシュト・ブルー(旧題 後宮)
日本史はもちろん学校で勉強した記憶があるが、私は日本という国について、なぜ大国に飲み込まれなかったのかと考えてみたことは一度もなかった。
日本人が日本語を使って暮らしていることに疑問も感じたことがなかった。日本という国を特殊だとか特別だとか感じたこともなかった。
子どものころの私はカナダ人はカナダ語を使っていて、インド人もインド語を使っていると信じ込んでいた。そのくらい日本人が日本語を使っている事が私にとっては当然で、他国もそうに違いないと思うほどに自然なことだったのだ。
けれど、王子という外国人の目を通してあらためてそのことを見てみれば、確かに不思議に思われた。そして、その答えを知りたいとも思った。
「あなたはそれを学びに日本に来たんでしょう。秘密がなんだか、わかったの」
王子は苦笑した。
「少しは。でもわが国がそれを真似するのは難しそうです」
「そう……」
王子は、クーデターが起こって国の未来がどうなるのか全く見えなくなった今も、しっかりと「カガンの王子」という自意識を持ち続けているらしい。
比較すること自体が失礼なのかもしれないが、自分が彼くらいの年齢のときに、どれほど人のことを考えていたかと思い返すと恥ずかしくなった。
「天気が悪いな……。そろそろ出かけましょう」
朝は晴れ間もあったはずなのに、昼近い時間になると鈍色の雲が低く空を覆っている。今夜も雪になりそうだった。