理由
目が覚めた。今度はちゃんと現実だと、鮮やかな額の血の色が覚醒させた。
気にかかっていた失禁は、奇跡的になかった。
どれくらい気絶していたのだろうか。
空の色は変わらないように感じる。そんなに長い時間じゃなかったのだろうか。
額の傷はたいしたことなさそうだ。幸い手近にあったティッシュで、軽くおさえながら体を起こした。
なんとも変な夢を見た。
もはや形は不明確で、すでに失われつつある。
さっきまでは天ぷらを、どの順番で揚げたかまで覚えていたのに。
きっと、単なる夢だ。
さっきヒステリーのようになったから、脳みそがこんがらがってオーバーヒートなんだ。一種のパニックだ。
だから変な夢を見たに違いない。
そう思いたいが、あの泣き崩れた時の気持ちは、リアルだった。痛いほど共感していた。私には不倫の経験なんかないのに。
孝利だって、どう考えても独身でしかない。
知りたくない、その気持ちは、なんだか腑に落ちてしまった。
「知りたくない。」
言葉にしてみたら、急に悲しくなって、涙が出て来た。
全く止まらない。
しゃくりあげて子供のように泣いても、あとからあとから涙の感情がわいてくる。しっかりとどんな感情かはわからないのに。どんどん涙があふれてきて止まらない。
孝利は泣きながら、「次は」と言った。
私は「来世」と思った。
あれははたして前世だったのだろうか。