理由
謎の渋滞に巻き込まれながらも、無事11時前に東京駅に車を放り込んだ。

コーヒーでも飲もうか、タバコでも吸おうかと思ったが、なんだか緊張が襲ってきてただうろうろするばかりだった。

入場券を買って、ホームに上がってみた。
ちょうど孝利が乗っているであろう車両の到着するところに立った。

落ち着かない。こんなに緊張するのは、入社試験以来じゃなかろうか。

まもなく新幹線がホームに滑り込んできた。私の緊張をあおらないよう気を使ってくれたみたいに思える、ゆるりとした到着だった。

ドアが開いても孝利はなかなか降りてこない。家族連れが目に入ると、なんだか不安を再び引っ張り出した気がした。
楽しげな子供の顔と、手を引くくたびれたその両親。
嫌なものを見てしまったと思った。
別に私に実害はないのに。
あの前世の夢は未だ私の頭を捕らえて離さないでいるらしかった。

気の毒なスーツ姿の出張族を見ると幾分気持ちが落ち着くが、孝利はまだ降りてこない。

なんだか泣きそうになってきた。乗っていないはずはないし、時間もホームも車両もあっている。
じれったくって、うろうろと孝利をさがす。だんだんホームに人が溢れてきて、探すのが困難になってきた。

あまりうろうろするのもはばかられるので、じっと突っ立ってみた。
まだ孝利は現れない。

あの夢の気持ちに、またリンクしてしまった。涙がここまできている。
多分今、おでこも頬も鼻も、真っ赤になっているはずだ。

もうだめだ涙が流れる、そう思った時、孝利がお土産の袋ごと大きく手を振りながら走ってきた。

もうなにも阻むものはない。おもいっきりよく、涙が流れた。
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