理由
涙を流して突っ立っている私に、孝利は人をかきわけお土産を振りかざし、走ってきて私を抱きしめた。

まるで安っぽいドラマのシーンそのままだ。

でも、とても幸福な気分だった。涙は流れて止まらないまま、足に力が入らなくなってきてしまった。抱きしめる孝利の手ににささえられて、ようやく立っていた。
食べて吸って寝ていた数日間、私は辛さを感じなくなっていたから、不安も収まったと思っていた。
それはかりそめの小康状態だったのだろうか。孝利の温かい体温は、やはり何十年ぶりのように思えた。

「よかった。やっと見つけた。」
孝利の言葉に、ドキッとした。まるであの夢の事だ。
「最初俺の隣の席に座っていた人がね、別の車両に知り合いがいたから、その人と席を交換してくれないかって頼まれてね。」
なるほど、だから孝利は変なほうから駆け寄ってきたのか。一瞬、あの夢の続きかと思ってしまった。

「あーこんなに泣いて。どうしたどうした。電話してもずっと上の空だったし、メールも返事返ってこないし、同じ事何度も聴くし、心配したんだぞまったくー。」

孝利は言う間も、抱きしめる手を緩めないでいてくれた。

人目をはばからず、真剣に抱きしめてくれているこの孝利の温かさ。
これを前にして、どうして孝利を疑おうというのだろうか。

「どうせ変な心配してたろー。女に会いに行ったんじゃないかとかさ。」

図星で何も言えなかったが、泣き声でごまかしてしまった。

「あのね、言っておくけど、お前だけなんだからね。」

余計に涙を流させた、なんてひどい男だと思った。
前世の夢は、疑う余地をほとんどなくした。

「恥ずかしいんだからさー、あんまり言わせないでよ。」

ぽんぽんと、軽く頭を叩く。子供をあやすような仕草を、嫌みには感じなかった。

やはり、あの時来世は約束されていたのだ。

私は、「見つけてくれて、ありがとう。」と、やっとの思いで言うことができた。


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