理由
あれから、孝利と私の距離はちょっとだけ変わったと思う。
あの日は家には帰らず、二人でシティホテルに泊まった。
孝利は、一晩中抱きしめていてくれた。
それ以上の事はしなかった。
それがとても心地よかった。
そのベッドの中で、私は思いがけない言葉をふいにこぼした。
「孝利、愛してる。」
言って、自分でびっくりしてしまった。
確かあの夢では、私は孝利を愛してるという自覚が強かった。
それは今まで感じた事のない気持ちだった。
好きより激しく、慈しみの深い気持ち。
この気持ちはあの夢に影響された幻なのかもしれないが、それでも孝利を目の前にして、それを言わずにはいられなかった。
孝利は深いため息をついて、更に強く私を抱きしめた。
私の耳に直接、その返事が返ってきた。
「やっと言ってくれた。俺も、愛してるよ。」
思ったとおりだった。孝利は、私が言いだすまでは言うまいとしていたのだそうだ。
自分が言ったら、明確に愛していると認識していない私にも、無理矢理言わせる事になると思って我慢していたという。それが結構つらかったと、笑っていた。
それを聞いて、私の愛してるはきっとまだ、孝利の愛してるには少しだけ足りないのだなと思った。
愛しているから、孝利は愛してると言うのを待っていてくれた。