理由
雑誌をまとめ終え、クローゼットにかかる。
冬物も夏物もごちゃまぜのクローゼットだ。
とりあえず、もう着ない服を奥のほうから引っ張り出して、ゴミ袋にどんどん入れる。
ゴミ袋3枚目で、ちょっと飽きた。着ないで置いておいた服が、こんなにあるものか。
私はまたタバコに火をつけた。


タバコの火を見つめていると、再び不安に襲われた。孝利は、今頃なにをしているだろう。
この不安は、どこからくるのだろうか。

同じ銘柄のタバコを吸う、孝利の手が頭に浮かんだ。
細身の孝利のキレイで男らしい筋ばった手。
不安はまた襲ってきた。不安に押し流されるように、孝利の手を触りたいと思った。
思ったと同時に、ケータイで孝利にコールしている自分に気付いた。

「もしもし?どうした?」
2コールで孝利が出た。
びっくりしてしまって一瞬言葉に詰まる。

「あ、あー…。ごめんっ。」
孝利はふっと吹き出した。
「なんだよ。いきなりごめんって。浮気でもしたか?」

笑いながらからかう孝利に、私はさっきまでの不安も忘れてムッとしてしまった。
「しないよ。そんなこと。」
「はいはいごめんなさいね。今運転してるから、用ないなら後でかけ直すよ。」
「かけ直さなくていいです。じゃっ。」

自分からかけておいて、勝手にきってしまった。

バチン!とケータイを閉じて、タバコに火をつけた。
さっき火をつけたタバコは、灰皿の上でまだ煙を出している。慌ててそちらを消した。

何をやっているんだろう。何のためにかけて、何のために怒って、何のためにきったんだろう。

自分に二重性を感じて、タバコを深く吸い込んだ。
不安の輪郭はハッキリしないどころか、怒りでよりぼやけてしまった。

私が、浮気なんてするはずないのに。冗談でも失礼だ。

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