理由
孝利が「好きだよ。」というのを、疑った時期も少しあった。
というか、最近になってやっとその疑いが消えた。

私は、男の人が自分に惚れているなんて事、基本的に信じられない。

大学の時に初めてできた彼氏も、付き合った半年間最初から最後まで疑い通しだった。
今でも信じられていない。

恋愛っていうのは何か特別な世界で、私みたいな通りすがりA的人間に、そんなドラマチックな事が起こるはずがないと思っていた。

20代になって、恋愛とは誰にとってもドラマチックなんだとわかっても、未だに信じられないでいる。

だから本当は今でも孝利を疑っているのかもしれない。だけど実感として、私は今、孝利を信じている。
信じさせてくれる人だ。



気を取り直してクローゼット整理に再び着手したところで、孝利から電話がかかってきた。

かけ直さなくていいですと言ったが、かけてくるだろうと思っていた。

「はい。もしもし。」
さっきのあさはかな行動が恥ずかしかったので、できるだけ抑揚なく答えた。



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