理由
クローゼットを片付け終わると、今度はあちらこちらに散らばったCDを集めて回った。

なぜこんなに室内に点在するのかいまいち良くわからないが、とにかく中身の入れ代わったCDを正しいケースに戻していく。

孝利は、CDを返してもらいに同級生に会いに行っていた。
野郎だって言っていたけど、本当だろうか。
私が取り乱していたから、嘘をついたんじゃないだろうか。
昔の彼女に会いに行ったんじゃないだろうか。

せっかく孝利が静めてくれた不安が、再びこみ上がってきてしまった。

今度の不安は、ちょっとわかりやすい不安だ。さっきまでの輪郭がぼやけた不安とは違うかもしれない。

今朝から、さっきまで。時間で考えたら、それなりの事をしてくる時間はある。

CDの入れ替えも、半ばで進まなくなってしまった。

私が浮気をするなんて、ありえない。
孝利以外の男はみんな馬鹿に見えるくらい、自分でも笑ってしまうくらい盲目に孝利を好きでいる。

だから、私は浮気なんてできない。する相手が見つからない。

でも孝利はどうだろう。
あんなに真剣に私に向き合ってくれる孝利が、浮気をするだろうか?
いやそんなのは、孝利にしかわからないじゃないか。

私に真剣に向き合うんじゃなくて、ただ単純に女を相手にするのが上手い男だったら?
私がうまくあしらわれているだけなんじゃ?


そういう事は、考えてはいけないと、悟ったんじゃなかったか。
接したらいつも信じるべき人だと思うし、信じたほうが自分も楽だ。

そう、疑うより信じて、裏切られるなら知らないところで裏切られたほうが、楽なんだ。

だから深く考えない。信じていればそれでいい。

今日はどうかしている。ついに話し言葉で自分を説得しにかかっている。

だけど、不安を押し込みきれない。孝利が、私の知らない女に、私にするように優しくする。

疑うのはやめろと言い聞かせる自分と並行して、妄想がかきたてられていく。
やめればいいのに、やめたいのに、その妄想は止まらなくなってしまった。
もう疲れた、考えたくないのに。

突然、強い立ちくらみを感じた。


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