家政婦だって、恋したい
「…おい結衣、何突っ立ってんだよ。ほら、向こうにふれあい広場があるみたいだぞ?」
「あっごめんなさい…碧斗さん行ってみましょう!」
私は飛びっきりの笑顔で、数メートル先で待っている碧斗さんに駆け寄る。
それからの時間は、本当にあっという間に過ぎていった。
イルカに触れ合ったり、ショーを観たり、
水族館の後は、中華街でディナーをご馳走になった。
綺麗な夜景を眺めながら走る帰りの車。
このまま時が止まればいいのにと刹那に願う。
――でも現実はそう甘くはない。
今日のこのデートのような1日は、
碧斗さんと拓哉さんががくれたご褒美なのだから。
明日からはまた、
『道具以下』の家政婦に戻るのだ。
ウインドウガラスに映る、今にも泣きそうな自分の顔を見つめながら、
私は覚悟を決めたのだった。