家政婦だって、恋したい
「碧兄遅いわね、電話してみようか。」
リビングダイニングにある全面ガラス張りの窓には、
すっかり太陽の姿を無くした東京の景色が、光煌めいていた。
「ーーあぁもうっ!碧兄ったら、マナーモードにしてるわね。全然出ないっ!」
耳を澄ますと、
緑花のスマホからは、留守電特有の女性の声が鳴り響いていた。
「可愛い妹との最後の夜くらい、気を使って高級レストランに連れて行くとか出来ないの!?」
「ふふっ。仕事じゃ仕方ないでしょ?」
スマホを睨みつけながら、恐らく碧斗さんにメールを打っている緑花に、苦笑いしながら言った。
でも結局、
その日、碧斗さんは家に帰る事はなく、
翌朝緑花がアメリカに発つというのに、
お見送りにも来ることはなかった。