もしも、もしも、ね。


氷に沸騰したお湯をかけた感じ。

体の力は一気に抜けた。

その脱力した私を見て篠田は「忙しい奴。」とケタケタ笑った。

誰のせいよ、誰の。

ムスッとした私の表情を見ると、
コイツは「本気にした?」とニヤリと顔を緩めた。



「だ れ が 。」

「だよなぁ。難攻不落の高嶺の花、桜野だし。」

「はぁ?」



何言ってるんだ、コイツ。

難攻不落だなんて、自分のことじゃないか。

歪めた顔から気持ちを察知したのか、篠田は「知らない?」と首を傾げた。

女の子顔負けの柔らかく細い茶髪がサラリと揺れる。

夕日を浴びた表情が同い年に見えないくらい大人っぽい。



「桜野ってさりげ人気あるんだよ?」

「冗談でしょ。」

「ホントだって。」



引いてくれないみたい。

っていうか、よく考えて「さりげ」って失礼じゃない?

だけど、私はこんな話題あんまり好きじゃない。

だから、きっぱりと言い放った。



「笑えない。それ以上言うなら、病院オススメするよ。」



こんなキツイ言い方私自身も好きじゃないけど、

嫌われても万々歳な相手だからサラリと言ってみた。

なのに、篠田は気にした風もなく、ただ「ホントなのに」と小さく呟いて肩をすくめただけだった。



「で?今のどういう意味よ。」



私が話題を戻すと、篠田の顔もばつが悪い表情に戻る。


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