もしも、もしも、ね。
私は慌てて口を押さえた。
ユウが驚いたように顔を上げて私を見る。
その見開かれた目に、聞こえた。と当たり前のことを感じて体中が熱くなる。
言ったことを取り消すことなんて出来ないってわかっていたのに。
次に私の口をついて出た言葉は、「私、何も言ってないから。」だった。
何言ってるんだ、私。
いつもはもっと冷静だろうが、私。
らしくないことに慌てて、なんて返ってくるか困って、バカにされるのが悔しくて、
唇噛んでうつむいた私の上から降ってきたのは、プッと噴き出した笑い声だった。
・・・プッ?
おそるおそる顔を上げたら、ユウは思い切りバカにしたような顔をしていた。
あ、これ。
私が一番むかつく顔だ。
「可愛くねぇ、お前。」
私が一番嫌いな顔をしたユウは、最低な言葉を口にする。
大きなお世話!と私が珍しくも怒鳴る。
いつもの空気。でもちょっとくすぐったい空気。
そんな私たちの間を風が通り抜ける。
冷たい空気は「寒い」と言うより「涼しく」て、少し火照った私の体を冷やした。
その風にサラサラの髪を靡かせながら、ユウは私の横を通り抜けてフェンスに向かう。
私も、向かう。
ユウはフェンスに背中を付けた。
私はフェンスを両手で掴んだ。
カシャン、と金属音が響いた。
見下ろした世界は暗くなり始めたせいでよくよくは見えなかったけど、
それでもそこを見れば思い出す。
遠いようで近い、過去。あそこで告白されていた、ユウの姿を。
「―――白雪姫。」
「え?」
突然ユウが呟くから私はふっと顔を上げた。
いつの間にかユウはずるずるとしゃがみ込んでいて、
“上げた”と言うよりは“下げた”という方が正しいのだけれど。