もしも、もしも、ね。


陸斗の目がスッと細まる。

その奥の視線が鋭く光って、私の身体中を捉えた。

そう、この瞳。

私は、ずっとこれが怖かった。

ビクンと体が跳ねたのが自分でもわかった。

だめだ。私の反抗なんて、陸斗の前では微々たるものだ。



「アカリ。」



心臓の音がうるさい。

身体中の血液が、冷たく感じる。

音なんて何も無くて、視界には陸斗しかいない。

カタカタと体が震え出す。

私の名前を呼ばないで。

陸斗が口にすると、それは私を捕らえる呪文になるの。



ヤメテ。



私を見ないで。



近付かないで。



じゃないと私、



“私”が、いなくなっちゃう。



「・・・ッ」



精一杯の力で視線を下に向け、ぐっと唇を噛んだ。

恐怖と一緒に沸きあがる悔しさ。

どうすればここを切り抜けられるんだろう。

どうやってユウ達を陸斗から引き離せばいい?

ぼんやりして、頭が何も考えられない。



耳も、目も、心も、陸斗が覆い尽くしていく。


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