もしも、もしも、ね。
「ふーん、やるじゃんアカリ。」
その見下すような視線に耐え切れず、私は顔を背けた。
けれど、「あれ?」なんていう無関係の声が上から降ってきて。
顔を向ければ、陸斗がユウをジロジロと見ていた。
まるで美人の女の子を相手をするように、頭からつま先まで。
その表情と、少し変わった声質に、思わずクエスチョンマークが浮かぶ。
「―――なんだよ。」
その視線に、同じように疑問符を浮かべつつも心底嫌そうに低い声で答えるユウ。
「いや」と陸斗は言葉を濁し、首を傾げた。
それから、不意に私を見るから。
思わずびくんと竦んでしまって、そのリアクションに陸斗は先ほどまでと同じ嫌な笑顔を浮かべる。
「ま、今日はアカリ見つけたし、もう帰るな。」
「―――そのまま二度と来ないで。」
「そんなこと言うなよ。今度メールするな。」
「着信拒否中。」
そう言ったのにも関わらず、陸斗はにっこりと笑った。
それから、私の頭をまたいつものくせでぐしゃぐしゃにし、
「じゃーな」とその身を翻す。
二度と会いたくなかった。
これからも二度と会いたくない。
そう思うのに、私はその後姿から目が離せなくて。
女の子に声掛けられながらも廊下から遠のいていくその姿。
変わらないのが嫌で、けれど懐かしくて。
この心臓をわしづかみにされたような感覚が、すごく、嫌。
「暁里。」
ふ、と私の前にユウの顔が現れる。
しゃがんでくれているのだろうか。
視線が、顔が、近い。
彼の手がそっと私の頭に触れてぐしゃぐしゃになった髪を直す。
けれど、どちらに関しても拒否する気力が私には残っていなかった。