もしも、もしも、ね。
*3*
「なぁ、暁里。」
「何?」
更衣室で、カバンに洋服を詰めていると、外から声が聞こえてきた。
この更衣室は、教室のある本館と少し離れたところに隣接された別館。
人通りも少ないし、今は交代の時間でもないから私達以外は誰もいない。
遠くで賑やかな声が聞こえるけれど、BGM程度のそれがユウの声を打ち消すことはなかった。
「今さ、俺たちの言ってたこと満たしてると思わねぇ?」
「は?」
「お前は一人でいるし。
でも俺の言ったとおり完全な一人なわけじゃねぇし。」
あぁ、確かに、と思う。
ユウは時々こんな風に変にドンピシャなことを言う。
私は顔を上げて、小窓の向こうの空を見上げた。
「あのね、陸斗とは中2のときに付き合ってたんだ。」
吸い込まれそうな空を見ていたら、自然に声が出た。
カタン、とドアの向こうから音がする。
ドアに背を向けているのに、
向けていなくたって見えないのに、
ユウが振り返ったんだってわかった。
その表情すら思い浮かんでしまう私は、どうしてしまったんだろう。
「ユウ、それが聞きたかったんじゃないの?」
「・・・興味がなかったっつったら嘘になるけど、
まさかそんな素直に吐かれるとは思ってなかった。」
少し間を置いて返って来た言葉に笑ってしまう。
笑うなよ、なんて言うユウ。
私、声出してないのに。
私に分かるみたいに、ユウにも分かっているのかな。
今のユウ、きっと頭を抱えて眉を下げながら笑ってる。
ユウの苦笑のスタイルだ。