もしも、もしも、ね。
「自然に好きだった人とも距離を置くようになった。
で、私には初めての彼氏で、何をしたらいいのかなんて分からなくて。」
けれど幸せだった、笑顔の耐えない日々。
「ただ一緒にいて、
ただデートに行ったりして、
夜遅くまで電話したりして。」
それだけでドキドキしてた。
いつも頭の中に陸斗がいて、私は初めて“幸せ”というものを知った気がした。
そんな平和ボケした私だったから、
「手を繋ぐとか、キスとか、そんなこと出来なかった。
―――想像することすら、出来なかった。」
“まだ”3年前?“もう”3年前?
けれど、あの日に止まった私の心にとっては、
そんな言葉よりも“前”という言葉に違和感があった。
「陸斗も、私にそんなことを強要することはなかった。
でもそれを、私は魅力ないのかなとか、
浮気してるのかなとか、
そんなことは思わなくて、自分が大事にされてるんだと思ってたの。」
大嫌いな人。
けれど、思い出せばまるで昨日のことのような記憶。
表情も、行動も、セリフも、状況も、部屋も、すべてを思い出すことが出来るから。
今もそう。
『どうして何もしないの?』
そう聞いた私に、陸斗は鼻を右手の人差し指で擦った。
陸斗の驚いたときのクセ。
それから、少し考えて、すっと私の手をとって。
甘い甘い表情と声で言ったんだ。
『こうしてるだけで十分幸せだから』って。
その言葉が恥ずかしくて、嬉しくて。
「うん」と頷いて陸斗に抱きしめられていた純粋だった私は、
ううん、無知だった私は、ただ幸せで。
陸斗も同じ幸せを感じていたんだと、思い込んでいた。
「でも、もちろん不安や疑問、心配があった。私にも。」