もしも、もしも、ね。


「自然に好きだった人とも距離を置くようになった。

で、私には初めての彼氏で、何をしたらいいのかなんて分からなくて。」



けれど幸せだった、笑顔の耐えない日々。



「ただ一緒にいて、

ただデートに行ったりして、

夜遅くまで電話したりして。」



それだけでドキドキしてた。

いつも頭の中に陸斗がいて、私は初めて“幸せ”というものを知った気がした。

そんな平和ボケした私だったから、


「手を繋ぐとか、キスとか、そんなこと出来なかった。

―――想像することすら、出来なかった。」



“まだ”3年前?“もう”3年前?

けれど、あの日に止まった私の心にとっては、

そんな言葉よりも“前”という言葉に違和感があった。



「陸斗も、私にそんなことを強要することはなかった。

でもそれを、私は魅力ないのかなとか、

浮気してるのかなとか、

そんなことは思わなくて、自分が大事にされてるんだと思ってたの。」



大嫌いな人。

けれど、思い出せばまるで昨日のことのような記憶。

表情も、行動も、セリフも、状況も、部屋も、すべてを思い出すことが出来るから。

今もそう。

『どうして何もしないの?』

そう聞いた私に、陸斗は鼻を右手の人差し指で擦った。

陸斗の驚いたときのクセ。

それから、少し考えて、すっと私の手をとって。

甘い甘い表情と声で言ったんだ。

『こうしてるだけで十分幸せだから』って。

その言葉が恥ずかしくて、嬉しくて。

「うん」と頷いて陸斗に抱きしめられていた純粋だった私は、

ううん、無知だった私は、ただ幸せで。

陸斗も同じ幸せを感じていたんだと、思い込んでいた。



「でも、もちろん不安や疑問、心配があった。私にも。」


< 156 / 299 >

この作品をシェア

pagetop