もしも、もしも、ね。
「でも、私は信じたくなかった。
その後に会った陸斗の笑顔はいつもと変わらなくて、
どうしても作り物には見えなくて、
だから私もいつものように返したの。
自分でも不自然だってわかるくらいの“いつも”だったけど、
陸斗は何も言わなくて。
あのときは、そっとしておいて欲しい気持ちわかってくれたのかななんて思ってたけど、
今考えればきっと、興味ない私のちょっとした違いなんて分からなかったんだろうね。」
もしくは分かってても面倒くさいから言わなかったか。
そう付け足して、少しだけ間を開ける。
流れる雲はとてもゆっくりで、あの頃の私の体感時間に似ているようだった。
毎日が苦しくて、寂しくて、
疑いの連続で、そんな自分が嫌で、
でも不安に押しつぶされそうで、
いっぱいいっぱいだった、あの頃。
「でも、私にも限界があってね。
きっかけは、女の子からの告白現場だった。」
「また校舎裏?」
「おしい、部室裏。」
私は笑ったけれど、ユウは笑わなかった。
「普通にね、告白されてたんだよ。陸斗。
いつものことだったのに、私そのときは何故か聞き耳を立てちゃって。
そういう現場に居合わせたことは何度かあったけど、
聞いたのは初めてだった。
だって、陸斗は断ってくれてるって、それまでは信じてたから。」
私が、もっと馬鹿なら良かった?
もっと馬鹿で、頑なに陸斗を信じ続ければよかったのかな。
「それに返した陸斗の言葉は、『5番目なら別にいいぜ?』だった。」