もしも、もしも、ね。


「私も何かひどい言葉を言い返したかった。

でも出てきた言葉が“二度と顔を見せないで”だなんて。

小学生みたい、笑っちゃうよね。」



今までのすべてを嘘に導いた言葉。

信じたくなかったすべてのことを真実に導いた言葉。

それは、二人の関係を壊すだけじゃなくて、“私”というものを崩壊させた。

生まれてきた興味を起こさない無の私は、ついこの間まで続いたものだった。

そんな大きな言葉の、返答はあまりに子供じみていて。

陸斗は、余裕たっぷりに「しばらくはな。」と笑った。

悔しくて、泣き顔を見られることも嫌で、私は部屋を飛び出した。



「私と別れた後の陸斗は、校内でも目立って色んな女の子といるようになった。

まるで、見せ付けられてるようで悔しかった。」

「・・・。」

「陸斗の周りにいつも笑顔が絶えなかった。

でも私は、信じていた陸斗の裏切りで、他のすべても信じられなくなった。」



親も、親戚も、妹も、友達も。



「変な話、信じられるのが勉強でね。

だって勉強って内容に嘘はないし、がんばった分だけ帰ってくるじゃん?

没頭した結果、今と同じ優等生桜野暁里の完成―、みたいな。」



陸斗との別れが生んだゆがみ。

その影響は大きくて、ほとぼりが冷めて冷静になったころ、

私の周りには何も残っていなかった。



「だから、高校もみんなと違うところに来たの。

何も残っていない、何も持っていない、すべてをなくした無の私のまま。」

「・・・。」

「でも何も変わらなかった。

陸斗のせいで生まれた優等生レッテルは私の背中についてるし、

周りと関わるのも怖くてクール扱いされるし、

屋上でサボるくせだって、中学の頃と変わらないままだった。」



そう、変わらなかった。

ユウと付き合うまでは、 何も 。


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