もしも、もしも、ね。


だからって。

いくら失礼な女になりたくないからって、

ここで篠田の言葉を否定するわけにはいかなかった。

だって否定したら、「じゃぁどうして?」ってなる。

私、理由言えないもの。

そうしたら、私は篠田が嫌いじゃないことになる。



―――ううん、私本当に、・・・本当は、篠田のことそんなに嫌いじゃないかもしれないけれど。



でも、それを認めるわけにはいかないんだ。

初恋に輝いていた私はすべて嘘だったと陸斗に崩されて。

今みんなと笑っている私は篠田との嘘から生まれたもので。

本当の私はどこかわからないけれど、

“無”の私は、陸斗と別れてから篠田と付き合うまでの私は、

本当の私であったはずだった。

ううん、少なくとも、そこが本当の私でなくちゃいけなかった。

そこにしか、私を探し出せなかったから。

“無”が“本当”なんておかしな言葉だけれど、私にはそれしかなかった。



だから、“無”の私が嫌っていた篠田は、『嫌いな篠田』のままでなくちゃいけなかった。



篠田が嫌いじゃないかも知れないなんて、認めちゃいけない。



悟られちゃいけない。



私の心に掛けられた、一番大きな鍵だった。



「―――そうだよ。篠田は、陸斗に似てるから、嫌い。」


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