もしも、もしも、ね。
回繰−カイソウ−
*1*
ねぇ、どこに行くのよ。
手痛いって!
見られてるから離して。
私は叫び続けていたけれど、
篠田が私の言葉に答えることなんてない。
楽しく賑やかな学校を駆け抜ける姿はその空間の中で異常で、
ましてや走ってる人が有名人“篠田裕哉”だなんて人目を集めるには十分で。
ジロジロと好奇心たっぷりの視線の中駆け抜けるのは居心地が悪かった。
叫んでいたことは半分本気。
そして半分は目立ちたくない照れだった。
けれど、ユウはいつまでも止まってくれないから、
冗談抜きに走ることが困難になってきた。
酸素が胸に入らない。
何度も地に叩き付けた足はしびれたようにジンジンと痛みを訴えてくる。
そのころには視線も恥ずかしさもすっかり消えうせ、
感じるのは、私の頬を流れる空気と自分の心臓音だけだった。
何度目か分からない「止まって!」を叫ぶと、
その声の緊急さとボリュームの落ち方に気付いたのか急にピタリとユウが止まる。
それから、やっと酸素と対面する私を一瞬見て、
聞こえるか聞こえないかの声で「ごめん。」と呟いた。
思わず「別に」と返してしまう私。
別にじゃないだろ、別にじゃ。
(だってこうなった原因はすべてコイツなんだ!!)
なんて頭の片隅で突っ込むけれど実際は呼吸を落ち着かせるのにそれどころじゃない。
―――なのに、ユウはまたぐんと繋いだままの私の手を思い切り引っ張った。
ま、まだ私歩けるような状態じゃ・・・ッ!!
けれど声は出なくて、私はバランスを崩すように前の男についていく。
もう彼が振り返ることはなくて、まるで「走ってないからいいだろ?」とでも言っているよう。
この自己中男!
ズンズンと歩き続ける彼の背を、力いっぱい睨みつけた。
だって、走るほど早くないけれど、その回りは早い。
結局、コンパスの差も伴って、自然に私は小走りになっているというのに。(気付け馬鹿!)
ずっと、睨みつけていたのだけれど。
目に力を入れるのすら出来ない疲れきった私の脳はどうやらぼーっとしているようで。
気付けば、まったく違うことに支配されていた。