もしも、もしも、ね。


「そりゃそうよね、万人に好かれるようなアンタだもんね!

自分のこと嫌う女なんて要らないわよね!!」

「暁里!!」



ふ、と名前を呼ばれ、体がびくんと跳ねた。

ゆっくりと視線だけ動かす。

ぎぎぎ、と音がしそうなぎこちない動きだったけど、

それでも篠田の向こうに人影を捕らえた。



どうして。



どうして、ここに望果と准君がいるの?



頭の片隅で疑問が過ぎった。

一瞬からだの動きは止まったけれど、

私の口は止まることなんてなかった。



「あんな嘘ついたのも、賭けを持ちかけたのも、

全部全部嫌いな私をこうやって陥れるためだったんでしょ?

それで、私が最低な女だから。

陸斗の話聞いてうんざりしたから、もういらなくなったんだ。」



最初から、最初から、分かってた。

そうよ、私が誰かに好かれることなんてなかった。

ずっと前からそうだった。



体育祭で盛り上がったり、

笑うことが増えたり、

教室にいることが多くなったり、

文化祭の準備がんばったり、

一人の影が四人に増えたり。

そんなの、全部嘘から生まれたことだった。

前から知ってたじゃない。

気付いてたじゃない。

嘘に終わりが来るなんて、当たり前。

ずっと、分かってたことだった。



でも。



「最低な嘘だよ。

やっぱりアンタは陸斗そっくりだ。

最悪の男だ。」



ねぇ、苦しいよ。ユウ。

理解出来たって、納得は出来ない。

だって嘘の私だったけど、嘘の関係だったけど、

楽しかったのは本当だった。

救われたのも本当だった。


< 176 / 299 >

この作品をシェア

pagetop