もしも、もしも、ね。
*2*
***
「で、何の用?」
『あのハゲ親父!』と今だ怒りが冷めないらしい陸斗を強引に引きずって、
私は近所の喫茶店に来ていた。
ここは望果とよく来る喫茶店で、こじんまりとした店舗は大きなビルの間で肩身が狭そうに立っているけれど、
クセになりそうな柔らかい味と、人柄の良さそうなイケメンのオーナーさん、
何時間でも居たくなるようなインテリアと音楽、
簡単に言っちゃえば、私が落ち着くことの出来る大好きな場所だった。
そこに陸斗を連れて来ることは勿体無かったけど、
私も少なからず動揺していたから、ここの紅茶を口にしながらなら少しは落ち着けるかと思ったのだ。
とりあえず一杯ずつコーヒーと紅茶を頼んで、
私は湯気を上げるそれに砂糖とミルクを入れながら陸斗に問いかけた。
「ホント、変わんねぇな。」
「え?」
なのに帰ってきた言葉はあまりに無関係で。
私は思わず目を瞬かせた。
そんな私の顔を正面から見据えてから、陸斗はクスクスと笑った。
「砂糖は一本。ミルクは半分。それで、しばらく冷まさねぇと飲めないんだろう?
猫舌のアカリちゃんは。」
「―――陸斗だって、変わらないじゃない。」
陸斗がからかうように言うから、私まで思わず笑ってしまった。
本当に変わらない。
コーヒーをブラックで飲む、大人ぶった所。
陸斗は手元を一瞬見て、「ああ」と合点が言ったように頷くと笑った。
こんな落ち着いた空気で彼と向き合ったのは、本当に数年ぶり・・・ううん、初めてな気がする。
付き合って間もない頃ですら、私はいつ陸斗がいなくなるかって不安で仕方なかったから。