もしも、もしも、ね。


笑った。



「お前には敵わねぇな。」



そう、言って。

「え?」と思わず呟くと、陸斗は大きく伸びをした。



「俺の用、お前に謝ることだったんだよ。」

「陸斗が?」

「そう、俺が。」



陸斗は、そう言って最初に置かれていたただの水を飲んだ。

すでに氷は溶けきり、コップには水滴が付着していてきっとそれはぬるかったんだろうけど、

飲みたくなる気持ちはすごくよくわかった。

ずっと抱えていた気持ちを吐き出すのは緊張するから。

私も、自分のそれを一口飲んだ。



「だって、誰がどう聞いても悪人は俺だろ?」

「―――・・・。」

「それを、何でお前から謝るかな。」



「はは」と笑いを零した陸斗の顔は、あまりに悲しそうで、私の胸がぎゅっとなった。

どうして私は気がつけなかったんだろう。

彼だって、3年間に変わっていたということに。

『足を踏んだ人と踏まれた人、どちらが辛いか』

という議題をご存知だろうか。

踏まれた人の痛みを踏んだ人は分からず、

残った傷は永遠に踏まれた人を傷つける。

けれど。



「本当に、悪かった。

俺の勝手な理由で振り回して、傷つけて、お前を裏切った。」



私は、踏んだ人の方が辛いと思うんだ。


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