もしも、もしも、ね。
「―――この間の文化祭でお前の目を久しぶりに正面から見た。
心から俺を拒絶して、怖がってて、『あぁ、俺はあの明るかったアカリをこんなにしちまったんだ』ってやっと気付いた。
あの当時は、自分のしでかしたことを認めたくなくて、女ばっかり作ってたから。」
だって、踏まれた痛みは長くたって一過性。
傷も、受け入れればただの思い出。
けれど、踏んだ人は?
「逃げてたのは、俺の方だった。
自分が、大切だった女に、取り返しのつかないことをしたなんて認めたくなかった。」
「陸斗・・・。」
「でもこのままじゃいけねぇって思って。
あの頃に囚われてたのは俺だけじゃなくてお前もだって気付いて、
どうにかしなきゃいけねぇって思った。
やっと勇気を出して電話掛けてみたらマジで着信拒否しやがってて、
少し待てばどうにかなると思ってて、
―――だけどいつまで経ってもその状況が変わんねぇから、思わずキレて怒鳴り込んじまった。」
笑ったつもりだろう陸斗の瞳はやっぱり少し揺らいでて、私が泣きそうになった。
踏んだ人は、心の傷を負う。
その切り傷はあまりに鋭くて、深くて、消えることなんて、ない。
「面と向かってお前に言いたかったんだ。
アカリ、悪かった。本当にごめんな。」
踏まれた人に、許されない限り。