もしも、もしも、ね。
「―――裕哉?」
唐突に呼ばれたのは、ユウの名前だった。
初めて聞く声なのに、私はその声に聞き覚えがある気がした。
いやな予感がする。
当たらないで。
当たらないで。
祈るように振り向いた私。
そしてその先にいる人に―――絶望した。
「恵理奈。」
さっきまで私の名前しか呼ばなかった声が、彼女の名前を呼ぶ。
―――“エリナ”さん。
見るのは3回目・・・けれど、こうして正面から向き合うのは、こんなに近い距離で会うのは初めてだった。
彼女はにっこりと美しく微笑むと、ゆっくりこちらに歩いてきた。
後輩のはずなのに、身長も振る舞いも雰囲気も完全に負けていて、
私は小さくなってしまう。
「デートって聞いてたけど、ここだなんて思わなかった。」
「恵理奈こそ。何やってんだよ。」
「あれよ、アフターシックスパスポート。
少し遊びに来たくなって・・・でも待ち合わせより早く着いちゃって一人暇してたとこ。」
親しげに話す二人を、私はぼんやりと見ていた。
感情も、言葉も何も浮かんでこなくて、
本当にただ“ぼんやりと”。
だから突然に彼女が私を見たときには本当に心臓が止まるかと思った。
「アカリ先輩?」
「!!」
「裕哉からいつも聞いてました!アカリ先輩ですよね?
学校でも有名なんですよー。頭が良くって優等生の高嶺の花だって!」
にこにこと微笑みながらよく回る赤くつやつやした唇に目が釘付けになる。
きっと何も裏のない褒め言葉なんだろう。
けれど、今の私にはなんて答えればいいか分からず、
「え・・・あ・・・」なんて意味のない呟きが小さく漏れた。