もしも、もしも、ね。
「!!!」
何が起きているのか、理解するのに時間は掛からなかった。
私は反射的に全力でユウを突き飛ばした。
彼はもうほとんど私を掴む腕に力なんて入れてなくて、すぐに離れた。
その表情は・・・俯いていて、見えない。
「な、何するのよ・・・ッ!!」
左手で唇を拭いながら、震える声を上げる。
泣かない。まだ、泣かない。
ユウの前で泣いてなんかやらない・・・ッ!!
「ユウっていつもそう!そうやって自分勝手で、私の気持ちなんて無視して・・・」
付き合うときも。
ユウとの出会いを思い出したときも。
別れるときも。
また付き合うときも。
今、だって。
「そうやって、いっつもいっつも私の気持ちかき乱して!!」
今だってユウには恵理奈さんがいるくせに。
こうやって思わせぶりなことするなんて。
「だ、大体こんなの契約違反よ!触れないって約束したじゃない!!」
そうよ、私達の関係は“契約”なのに。
「どうしてこんなことしたのよ!!」
私の言葉にユウは答えなかった。
ただ、周りの人たちが野次馬のようにちらちらと興味本位の視線を私達に向けるだけ。
寂しくて、悲しくて、苦しくて、イライラして、
私は全力で叫んだ。
「ユウの・・・ユウのバカぁッ!!」
全力で、偶然手にあった紙袋を叩き付けた。
ユウに八つ当たりするのは、文化祭以来二度目。
けれど、大嫌いをいえなくなっただなんて大きな変化。
―――そんなことに彼が気付くわけもないけれど。
私は、背を向けて走った。
二度と振り返らなかった。
ユウも、追いかけては来なかった。