もしも、もしも、ね。


「恵理奈、ちょっと上の階行ってるか?」

「ううん。平気。」



少しだけ、陸斗が恵理奈ちゃんを気遣った。

恵理奈ちゃんは先ほどまでの元気っぷりでは無かったけれど、

それでも可愛らしく笑った。



「俺の両親は俺が生まれてすぐ離婚したんだ。

原因は、親父の浮気。―――そして、その浮気相手の妊娠。

離婚した親父はその浮気相手と結婚して、今も子供ともども三人で暮らしてる。

その子供が恵理奈。

その浮気相手・・・と言葉悪いな、恵理奈の母方の従兄妹が裕哉なわけ。」

「そうなんだ・・・。」

「まぁ別に気にすることねぇよ?俺と恵理奈は親公認で会ってっから。

まぁ俺は恵理奈の両親には会えねぇけど、うちの母親は恵理奈のこと可愛がってるし。」



まるでテレビのドキュメンタリーで見るような関係に、私は口を閉ざした。

もう「苗字違うじゃん!」なんて突っ込んでいられない。

ただ、理解できない世界だけれど納得するしかなかった。

さっきまでの無神経な自分に腹が立った。



「ただ、俺もついこの間まで恵理奈がいつも自慢する“カッコいい従兄妹”が裕哉だなんて知らなかった。

一回写真を見せてもらったこともあったから、文化祭で裕哉を見たときに引っかかりはあったんだけどな?」



あ、と私は思い出す。

そういえば陸斗、妙に舐め回すようにユウを見ていたっけ。

あれは、見たことのある記憶を探っていたからだったんだ―――


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