もしも、もしも、ね。
くすぐったくなる言葉はご丁寧に丸で囲んであって、少しだけにやけてしまう。
あれから私達は無事に受験も終了し、私は文学部に進んだ。
裕哉は法学部に、望果は美容系の専門学校へ、そして准君はサッカーをやめて工学部に。
見事にばらばらになってしまったけれど、それでも私達の仲の良さは変わらない。
望果と准君は「卒業まで待ちきれない!」なんてらしいことを言って、
一足早く籍を入れて佐久間夫婦になってしまった。
―――そして、私達は・・・
「あと3ヶ月くらいだね。待ち遠しいでしょ?」
「うーん、なんかもう形だけって感じ。同棲してるし?」
ティーカップを持つ望果の左手の薬指にはめられた指輪に目をやりながら、苦笑して返す。
私と裕哉は、3月に卒業して直後籍を入れることになっている。
今は雪が降る12月。
私はこうして喫茶店で佐久間夫婦に・・・正確に言うと機械の強い准君に、
私達の馴れ初めビデオ製作を依頼しているわけだ。
まぁ、新婦が依頼するなんて異例かもしれないけれど、
私と裕哉の歴史を知っているのは数少ないし、准君の技術信頼してるし。
私は、恥ずかしくて長年口を閉ざしてきた高校時代の話をすることになったのだった。
「えー、籍入れるのと入れないの大分違うよー?」
「あんなの紙一枚じゃない。」
「出た出た。クールなのは変わらないんだから。」
呆れたように肩を竦める望果はもうトレードマークのツインテールをしていない。
そんな小さなことに時の流れを私は感じるんだけど・・・中身は変わらず。
私を馬鹿にするような望果の言葉に私も少し口を尖らせ、
それから確認しようと思って准君に貸してもらった紙にやっと目を移した。
―――・・・移した、ら。