もしも、もしも、ね。
ま、間違ってない。
だって、あの日、私は裕哉の言葉にびっくりして、でもすっごい嬉しくて、
今だって一言一句ちゃんと思い出せるのに。
私の言葉を聞くと、裕哉は「へぇ」とわざとらしい相槌を打った。
「なのにてめぇは、兄貴を裏切って陸斗と付き合って?」
「う。」
「その男がトラウマになって俺を嫌いやがって?」
「うう。」
「そのスライドに“魔性女・暁里”も付け足しておいた方が良くねぇか?」
「ううううううー。」
あまりに鋭利な言葉の数々に私が机に突っ伏すと、
上から「まぁまぁ」と准君のなだめる声が聞こえた。
「確かに暁里はありのまま話してくれたって。
書き方は俺が悪かったから、暁里に当たるな。」
「人の過去の恋愛を面白おかしく馬鹿にされて怒らずにいられるかっつーの。」
ふん、とご立腹をあらわにしている裕哉の元に、ウエイトレスさんがコーヒーを運んでくる。
それをブラックのままぐいっと一口。
怒ると中々ご機嫌が戻らないのも変わらない裕哉の癖。
この様子だと、今日のこと覚えてないかなぁ―――
「暁里。」
「んー?」とため息交じりにやる気なく返事をすると、
裕哉は真っ直ぐな視線で私を見つめ、「行くぞ。」と言った。
「へ?」
「行くぞ。この馬鹿夫婦とこれ以上いられるか。」
「あー、望果のことまで馬鹿にしたー!!」
「っていうか俺も馬鹿じゃねぇ!!」
「―――・・・行くぞ。」
「ちょ、ちょっとお!!」
裕哉来たばっかりなのに!!
コーヒーも一口しか・・・って熱いブラックを一気飲みかい。
空になったコーヒーカップを呆れ半分に見、
そして私が立ち上がって止めるもむなしくさっさと歩き出してしまった裕哉の背と、二人の顔を見比べる。
准君と望果は慣れてます、といった様子でにっこり笑った。
「いいよ、裕哉の方行って。」
「だって今日は、特別な日でしょ?」
「・・・うん、ありがとう二人とも!」
私は精一杯御礼を言って、未来の旦那を追いかけた。
「次のランチ奢りねー」なんて望果の声を背に受けながら。