もしも、もしも、ね。
***
「ねぇ、裕哉?」
家までの道を歩きながら、私は唐突に裕哉に問いかけた。
「何?」と答えてくれた声は普通で、もうご機嫌は直ったことがうかがい知れる。
「さっきね、二人に高校の頃の話してる間に疑問に思ったことがいくつかあったんだけど・・・聞いていい?」
さっきの今で怒るかなぁ、と思いつつ裕哉の顔を覗き込んだ。
裕哉はちらりと私を見、それから「いいよ。」と小さな声で答えてくれた。
「あのさ、文化祭の日、別れたじゃん?」
「うん。」
「でもあの日、電話でまた付き合おうって言ってくれたじゃん?」
「あー・・・」
「あれ、なんで?」
しばらく、裕哉は無言だった。
思い出してるのだろうか、それともご機嫌斜め?
答えたくない、とかなのかな。
私もこれ以上言葉を追及できなくて、イルミネーションの装飾を施された街路樹をぼんやりと眺める。
だから、
「別れたくなかったから。」
そんな唐突な回答に、私は反射で「は?」と返してしまった。
裕哉は私のリアクションがお気に召さなかったのか、眉間に皺を寄せながら私を見る。
「答えろって言ったの暁里だろ?」
「いや、そうなんだけど突然だったからびっくりしたっていうか・・・。
で、別れたくなかったって、え?」
「あの時暁里は俺のこと嫌いって言ったけど。
俺は暁里が好きだったから嘘でも引き止めておきたかった。
恵理奈と変な噂が突然流れ出したから、さっさとそれを払拭したかったってのもあるし。」
こ、この人さらりと結構嬉しいこと言ってくれたかも・・・ッ!!
でも、恥ずかしくても「嘘でしょ」とは言えなかった。
だってあの本当に付き合うことになった日から、
裕哉は本当に一回も嘘を付いたり隠し事をしたりすることはなくなったから。
照れ隠しの言葉を封印されてしまって、なんて答えればいいか迷っていると、
「不十分?」なんて裕哉が言う。
ただ必死に首を横に振った。
(そんな必死な私を裕哉が笑った気がするけど・・・き、気のせいだと思いたい・・・ッ!)