もしも、もしも、ね。
私って本当に最低最悪な女かも知れない。
しゅんと縮こまると、私の頭にぽんぽんと乗っかる熱。
恐る恐る隣を見れば、「俺も言ってなかったからな。」なんて苦笑する裕哉の姿。
頭を撫でてくれる動作に、その端正な顔立ちに、
今だきゅーんとときめいてしまう私って・・・単純。
「でも兄貴が居なかったら、俺も暁里を好きにならなかったしな。」
そう言って、裕哉は優しく私を見つめた。
付き合って何年も経って、一緒に暮らして、キスだってそれ以上だって幾度となくしてるのに。
まだまだ裕哉にときめく私がいる。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動を全身で感じながら、私も微笑んだ。
「裕哉が私を気に入ってくれなかったら、屋上の私を巻き込まなかったでしょ?」
「それ言ったら暁里が屋上に居なかったら、あんな嘘付かなかったし。」
「私裕哉を嫌ってなかったら、きっとファンクラブの子たちみたいに裕哉にデレデレだったかもよ?」
「うわ、想像できねぇ。―――っていうと、俺を嫌わせた兄貴や陸斗に感謝だな。」
懐かしむように話す私達は、気付いたら手を繋いでいた。
指先から伝わるぬくもりはあの頃と変わらない。
ずっとずっとこのぬくもりを感じながら、あの頃から今まで来た。
これからも、ずっと感じて生きたい。
「もしどれか一つでも欠けてたら、私達今こうしていなかったんだろうね。」
「そうだな。」
私達が歩んだ道。
ほんの少し変わっただけで、きっと私は裕哉に出会えなかった。
裕哉は私を好きになることなく、
私も裕哉を好きになることなく、
まったく別の道を歩んでいたのだろう。
もしかしたらそっちが幸せだったのかなぁ?
―――ううん、絶対そんなことない。
“今”に至るまでの道は奇跡の連続だったから。
みんなが笑って、
隣に裕哉がいて、
幸せを感じて、
こんな良いエンディングって他にある?