もしも、もしも、ね。


気付いたら、私達は鮮やかなイルミネーションの真ん中に立つ時計台の前に来た。

ここは、家とはちょっと違うところのはずだけど・・・。

驚いてあたりを見回していると、目の前にいた裕哉が「暁里」と私を呼んだ。

え?と振り向くと裕哉がじっと私を見つめていた。

その視線から“愛しい”なんて言葉を思い浮かべてしまうくらい慈しみに富んだ裕哉に、

初めてみる裕哉に、私はどきどきしながら「何?」と返す。



「今日なんの日か覚えてる?」

「―――忘れるわけないよ。」



裕哉と付き合うことになった日。

12月26日。

今年で5年目だ。

良かった、と笑う裕哉に「裕哉こそ覚えてないかと思った」と心の中で返した。



「―――暁里。」

「ん?」

「お前と付き合うときさ、俺ちゃんと“好きだ”って言わなかっただろ?」

「うん。」



いつも“付き合って”とか“俺も”だけで、ちゃんと言葉にしてもらったことはない。

けれど、普通と違う道を歩んだ私たちだから、

私は裕哉の気持ちを感じて理解してきたつもりだった。



「だから、今回はちゃんと言おうと思ってたんだ。」



え?と声を上げようとした私の声は・・・止まった。

流れるような動作で、裕哉がポケットから小さな箱を取り出すから。


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