もしも、もしも、ね。


ユウの手前でスピードを緩める。

バトンを持つ手を伸ばして、ユウの手に置く。

ポンって音。皮膚とバトンがぶつかる音。


ユウの指が動いた。

バトンを掴むんだ。



「は「はい。」い・・・」 カラーン



成果、なし。

肩を落としながらしゃがみ込むと、上からため息混じりの声が聞こえた。



「だからさ、なんでそんな離すの早いわけ?」

「・・・そう、かな。私ちゃんと手に乗っけてるの確認してるよ?」



今回ははっきり違うって言えなかった。

ユウのせいだ、って責められなかった。


―――自覚が、あったの。


ユウの指が動いた瞬間、急に呼吸がしにくくなって喉がクッと詰まる衝動が起きて、

スッと手を離してたから。

今回は、絶対に私のせい。



「俺が掴むのまで確認しろよ。」

「うん・・・。」



私の気持ちをわかってくれてるのか、わかってないのか知らないけど。

ユウは小さく笑ってくれた。

私の目の前に転がるバトンを「よ」と拾い上げながら、

ユウは続けて口を開いた。



「別に、そんなにあせる必要ないっしょ?」

「そう、なんだけどさ・・・。」

「なんか理由あんの?」

「特にない。」



自分でもらしくないくらい、小さくて消え入りそうな声。

申し訳なさとか、悔しさとか。この気持ちが意味分からなくてもやもやしてる。


< 34 / 299 >

この作品をシェア

pagetop