もしも、もしも、ね。
私は声にならない声をあげて、ぱくぱくと口を開閉させた。
まるで酸素不足の金魚みたい。
だからって、ノーリアクションっていうわけにもいかないし、
これ以外の何かリアクションをしたくても頭が真っ白でどうにもならなかった。
もちろん、彼女のわけがない。
ううん。むしろ『あってたまるもんですか』。
さっき言ったとおり、私は彼のことが大嫌いなのだから。
女の子は「わかりました」と顔を曇らせると、その場を走り去った。
「桜野!」
篠田に名前を呼ばれ、体がびくんと跳ねた。
告白していた女の子方向に戻っていた小綺麗な顔は、また私を見つめていた。
声が出ない。
だから返事はできなかったけど、視線ははずさなかった。
「そこ、動くなよ!!」
叫んだと同時に、私の視界から消える篠田。
耳に残るのは、軽快に奏でられる走る足音。
へぇ、さすがバスケ部エース。
足早いなぁ・・・
じゃなくて!!!
私はすぐさまフェンスから体を離し、方向を180度転換。
体の後方にあったドアまで自分でもびっくりの早さで駆け寄ると、
慌てて鍵を閉めた。
急いでるせいか、なかなかつまみは回らなかったが、
しばらくいじっているとがちゃりと重たい音を立てて、つまみが縦から横になった。
ノブを引く。確かに閉まってる。
「これで、入って来れないよね。」
私は自分を落ち着かせるようにつぶやいて、それからフゥと大きく安堵の息を吐いた。
元々昼寝していた場所(布団代わりに敷いた上着のセーターが目印になってる)
に戻って、ごろんと横になる。