もしも、もしも、ね。
「でもさぁ、暁里ちゃんすごいよねぇ。」
「んー?」
黙々と縫う作業を続けていると、そんな声を掛けられた。
少し高めで、おっとりとした口調。
体育祭から喋るようになった、ともちゃんっていう癒し系担当の女の子。
「あの篠田君に真っ向切って喧嘩できるの暁里ちゃんくらいだよぉ。」
「そう?」
「だって、大抵は媚び売るか、篠田君のファンクラブを怖がるかじゃない?」
「ファンクラブなんてあったんだ。」
私がそう言えば、本来の文化祭運営委員であるなっちが目を見開いた。
「え?暁里ってば知らないで付き合ってたの?勇気あるー!」
「ま、どの道怖がる必要なくない?どうせ人間なんだし。」
「いや、あの団結力に陰険さ、情報網、神出鬼没な行動・・・意外と人間じゃないかも。」
からかうようになっちは「どうする?」と口角をあげた。
えくぼが可愛くて、私はなっちの笑顔が好きだ。
「でもさ、思ったより大人しいよね?」
「「「え?」」」
突然会話に参戦したのは望果。
糸がなくなったらしく、慣れた手つきで玉止めを作りながら「そうじゃない?」と首を傾げた。
「だって、暁里と裕哉君が付き合ってもう一ヶ月以上経つのにさ。
まだ呼び出しもイジメも始まってないじゃない?」
「ユウの元カノ達は始まってたの?」
「・・・っていうか。」
私の問いに、望果となっち、ともちゃんは顔を見合わせた。
「裕哉君が彼女作った、なんて初耳だよね?」