もしも、もしも、ね。
「あ、准君遅いよ!!・・・って暁里?一緒だったの?」
「悪ぃ、悪ぃ。ま、来ただけマシだろ?」
教室を開けた瞬間飛んでくる膨れた望果の声。
しかし、すぐに私に気付くときょとんとした驚きの色がそこに含まれた。
准君は軽く笑って手を振った後、「んでこいつは。」と私の方に首だけを向ける。
「保健室居たから連れてきた。」
え?と顔を上げると、准君は望果に見えない角度でぱっちりとウインク。
確かにさっきのことは望果に知られたくない。(だって望果はユウを刺しに行かねないもの!)
私が何も言わなくてもそれを察して、気を利かせてナチュラルに嘘をついてくれる准君はいい人。
これで容姿がいいんだもん。モテるのも分かるわ、と一人納得する。
「暁里、裕哉君と一緒じゃなかったの?」
「ユウなら買い出し行ったよ。」
准君の嘘に何にも違和感を持たなかった様子の望果にホッとしながらそう言うと、
彼女は「頼んでないけどな」と首を傾げた。
ま、荒川さん(っていうんだってさっき知った)が引っ張っていったようなものだし、と私は少し苦笑。
「でも、私とユウが行った分のロスは埋めてくれるでしょ。」
「・・・そうだね!」
何か察したのか、それとも素直に私の言葉を受け取ったのか。
少し意味ありげな間を空けながらも望果はにっこりと笑った。
それからすぐに私に背を向け、教室に向かって
「准君来たよー!パシり欲しい人よろしく!」
と学校中に響き渡るんじゃないかというような音量で叫んだ。
一斉に「はーい!」と手を挙げたクラスメート。
「おいおい!」と慌てる准君。(たぶん双方が本気だ。)
あっという間に、さっきまでの日常に戻された私は、
いつの間にか笑ってた。
そうよ、ユウなんて関係ない。
ユウなんかに心かき乱されなくたって、私はこのクラスで楽しんでる。
私は必死にそう言い聞かせた。
元々クラスに溶け込めたのは体育祭の時のユウのおかげだって、わかってたのに。
私は気づかないフリをして、みんなと笑った。