クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ

「……なに?」

 ごろんと寝返った千堂部長の顔が、数センチの距離にきた。


「あの、誰かに見つかったら大変ですし、今のうちにお部屋にお戻りになられては」

「ん……」


 極めて穏やかな寝息が返事の代わりに返されて、寝ぼけていただけと気づかされた。


 暗闇に慣れた瞳は、これでもかと千堂部長の端麗な顔を大迫力で届けてくる。

 目を閉じればいいかとまぶたを下ろせば、存在感が圧となって息をすることすら許されず、たまらなくなる。



 キスをされた。

 女子社員に追われて逃げ込んで、私が声を出さないようにするための手段だったのだろう。


 だけど、知ってしまった。


 部長の唇の温度や、やわらかさを。

 寝息の音や、脱力した寝顔を。


 いつもは見せない、男らしくて意地悪で、自分勝手な一面を。


< 158 / 361 >

この作品をシェア

pagetop