クールな上司とトキメキ新婚!?ライフ

 2人でいるときは、あまり仕事の話をしなかった。
 会社という建物の中にいるとき以外は、本当に必要な場合を除いて、私がその話題を持ち出すのを嫌った。


 それなのに、ランチの間はずっと企画の話が詰め込まれていた。

 話している彼の顔つきも言葉遣いも丁寧で紳士的で、手が届くはずのない遠い存在と思いつつも、憧れを抱いていた高嶺の花の千堂部長そのものだった。




 帰りの車内は、何も楽しい話ができそうにない。
 こうして助手席に乗せてもらえているのが自分だけでも、嬉しいと思う感覚が鈍っていて、作り笑顔さえできない。



「どうして、柏原さんにバラしたんですか?」

 答えをもらえないまま、はぐらかされている問いかけを蒸し返す。
 しつこいと思われようと、苛々されようと構わない。


 仕事と恋愛の境目を、部長が守っていてくれないと……。


 会社の地下入口を、車が駆け下りる。
 エレベーターの近くで停車して、私はシートベルトを外した。



「絶対に噂にならないっていう保証はないんですよ」


「……わかってるよ、もちろん」

 そう言い残して、彼は私を車から降ろした。


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